日本に4か月間留学して帰ってきた娘は、すっかり日本スタイルのコミュニケーションに慣れたようで、先日「ドイツやだ~~(涙)」と言っていました。どういうことなのか話を聞いてみると……
「よろしくお願いします」がドイツ語にはない
「ドイツ語ってさ、相手に何か言われた時に何て返していいか分からないことが多いんだよね。」と娘は言います。
「例えば初めて会った人が自己紹介をしてきた時。日本だったら『よろしくお願いします』とかって言えるじゃん。いつでも。でもドイツ語だと、……え?何て言ったらいいの??言うことないじゃーん💦」とのこと。
確かにね!(笑)
娘は最近そのような場面に遭遇したらしく、「何か言わなきゃ!」と思うものの何も言葉が出てこなくて、笑顔を返すことしかできなかった……気まずかった……そうなのです。
この話を聞いて私は思わず「え?あなたドイツ人でしょ!(笑)」と言ってしまいました。
外国人の私にとって、このような場面はスムーズに言葉が出てこなくて難しい、ということはよくありました。今はもうドイツ生活も長いですし、それなりの大人なので(笑)、たいていの場合何かしら返すことはできますが、スムーズに言葉が返せないもどかしさ、というのはとてもよく分かります。
でもそれを、ドイツ語ネイティブの娘がドイツ語の会話で感じているとは!
これは外国人にとって、というだけではなく、ドイツ語そのものに原因というか、そういった特性があるのかもしれません。ドイツ語には抽象的な言葉があまりないような気がします。
「よろしくお願いします」ってほんっとうに抽象的な言葉ですよね(笑)。便利すぎる。
このフレーズはドイツ語で生活する中で、ドイツ語にもあったらどんなに便利か!と思うこと多々です。日本語でメールを書くとき、最後はこのフレーズで締めることが圧倒的に多いですよね。ドイツ語にはこういった言葉がないから、よく「文章が突然終わる」感じがします。ブチっと。
きちんとした手紙の場合は、締めのフレーズを丁寧に書きますが、メールの場合、特に内容が連絡的なものだと本当に最後はブチっと突然終わります(笑)。
ドイツ人にとってはもともと「よろしくお願いします」系のフレーズはないので、ブチっと終わることに違和感はないのだと思いますが、娘は日本流のコミュニケーションを知ってしまったので、「ドイツ語にもあったらいいのに~~」となるのですね。
その他にも最近困った場面で、学校の先生とのやり取りがあったそうです。
ある科目の先生に、「日本(留学)から帰ってきたんだね!」と言われ、どう返していいか分からなかったとのこと。笑顔で「あ、はい~……^^」としか言えなかったそうなのですが、ここも日本語だったら、「あ、はい。またこれからよろしくお願いします。」とか言えば、何となく会話した雰囲気になりますよね(笑)。
さらにここに先生が「がんばってね。」などと言えば、「はい、がんばります!」みたいな。内容はあまりないんですが、ふわっと柔らかいコミュニケーションが取れて、結果的に意味があると思うんです。
こういうことの積み重なりが至る所にあって、日本は全体的に柔らかい雰囲気なのではないか、とまで思えてきます。
「すいません」の効果
また、日本滞在中に娘が気づいたことには、「日本人は『すいません』をよく言う」ということがありました。
これは私も以前から思っていることですが、ドイツ人は日本人ほど「すいません」を言いません。もちろんきっちり謝罪の気持ちを伝えるときには言いますが、日本人はもう少し軽い言葉として会話の中に散りばめているイメージがあります。
例えばお店で店員さんに在庫確認をお願いしたとき、倉庫から店員さんが「すいません~お待たせして。……」と言いながら戻ってくる ― よくあるシーンですよね。
ドイツだとこの場合、店員さんはお客さんのところに着くまでは無言。そして「在庫はありません。」などと事実を伝えるのみ。……という感じが多いです。あまりにもストレートに「ない」と一言だけ言われ、他の和らげるフレーズがないので、いまだに一瞬戸惑うこともあります。「ない」のあと、無言なのですから(苦笑)。
フレーズの話からは逸れますが、日本だとこの後「お取り寄せいたしますか?」となり、「入荷しましたらご連絡させていただきます」という流れになることも多いですよね。こういった素晴らしいサービスには毎回感激します!
他の例では、問い合わせの電話をして相手が「担当者に変わります」となった場合。日本ならここでも、「すみません、お待たせしております~担当の○○です。」などと言うことも多いと思いますが、ドイツだと「Ja, Hallo?(はい、もしもし)」だけだったりします。
相槌を打たない
また、「すみません」のフレーズではありませんが、例えば病院の予約を取るために電話する時のお話。
電話をかけたこちら側は「こんにちは、○○と申します」と言うのが一般的なのですが、そのあと相手は無言、というケースがとても多いです。
感じのいい人だと「こんにちは」と返してくれるので、こちらも続けやすいのですが、大抵はノーリアクションなので、空気が固い中会話が始まるという感じでちょっとした緊張感が走ります💦
そう、ドイツ人は無言の場面が多いのです!
逆に言えば、日本人は相槌を常に打ちますよね。打ち過ぎじゃないかって言うくらい(笑)。でもそれが会話を滑らかにする役割を担っていることは確かだと思います。
「へぇ~」「そうなんだ」「そっか」「あぁ~」「うんうん」「えぇ」「だよね(ですよね)」etc.
内容的にはあまり意味のない言葉たちですが、これらを会話の中に散りばめることによって、全体的に柔らかい雰囲気になります。
前置きがなくてストレートすぎる!
学校で息子の個人面談(親と先生のみ)があった時にも、そんなことを感じたことがありました。
先生に息子の直した方がいい点を指摘され、それについては以前から私たち親も気になっていたので、「どうしたらいいでしょうか?」と言うと、先生は
「私には分かりません!改善できる秘密の特効薬でもあったらいいんですけどね!そんなものはないですからね!」とバッサリ。
いやいや先生……そこまでバッサリ行かなくても……💦
先生だからと言って特効薬を知っているとは思っていないけれど、もう少し柔らかく言ってくれてもいいのになぁと思ってしまいます(苦笑)。「うーん、そうですねぇ。」とか前置きしてくれたらそれだけでずいぶん違うと思うのですが、娘にその話をすると「ドイツ語にはそういう言葉がないからね(苦笑)」と。
それぞれの言語がどのような構成になっているかというのは、その言語で成される会話の色(雰囲気)に影響を与えるのですね。
娘には、会話を滑らかにする言葉が散りばめられる日本語でのコミュニケーションの方が心地よいようです^^